2023/11/03
【設計事務所のデザインコラム】#2商品のルーツを探る(店舗)
#2名古屋を拠点にインテリアにこだわる設計事務所 CURIOUS design workers【建築家のデザイン思考】
これは愛知県名古屋市にあるコンブチャ専門店兼醸造所の
「Plus Kombucha」(プラスコンブッカ)なんですが、メインの販売エリアのデザインアプローチについて話したいと思います。
店舗をやりたい方やいろいろな店舗に行った時の楽しみのひとつとして見ていただけたらいいなと思います。
まずコンブチャについてご存じですか?僕もここのオーナーに出会うまではコンブチャとは何か知らなかったです。(ちなみに昆布のお茶(昆布茶)じゃないです)
コンブチャは腸内環境を整えながら、健康によく、美容にも間接的に効果があるもので、海外ではかなりメジャーな発酵ドリンクです。
昔は「紅茶きのこ」といって一瞬流行ったらしいです。
この「コンブチャ」に魅せられてもっと世の中に「コンブチャ」の素晴らしさを広めたいというオーナーが「Plus Kombucha」という店舗を構えていたのですが、計画当初は醸造機を入れて生産ロッドを増やし、より多くの人に広めるために改装をするところからスタートしました。
オーナーのコンブチャへのこだわりと情熱に心打たれて、お手伝いさせていただこうと思い、コンセプトからスタートしました。
当初は既存店舗の改装予定だったのが、隣のビルの1階路面店が空くとのことで、急遽移転計画に移りました。
約80㎡くらいの店舗に対して、「厨房エリア」、「販売エリア」、「醸造室」をつくらなければいけなく、飲食業許可と清涼飲料水の許可も必要だったため、水栓の数等もかなり必要でした。コンブチャを世の中に広めていきたいとの要望があるので、醸造機をインテリアデザインに取り込む計画とするため、醸造機の位置を最初に決めようと考えたんですよねぇ。
そしてもともとパン屋さんだったため、パンの香りが店内に充満していたため、果たしてこの匂いが取れるのかということをオーナーは懸念していたため、壁の仕上げは全部排除しながら、残すところと改善することを明確に分けてコストバランスを取ろうと考えました。
醸造機のサイズを聞いたら、幅が4520㎜でかなりスペースをとるため、最初は販売スペースに露出させながら、意匠として成立させようと考えたんですが、醸造機での発酵の適正温度、湿度があり、年中一定に保つ必要があったため、発酵の適正温度と人が快適と感じる温度の差を埋めることは難しく、やはり1つの部屋として成立させなければ、「味」がおかしくなるので販売スペースに露出することはやめました。(保健所の規定もありましたし)
温度、湿度管理のできる醸造室を造りながら、来訪者からの視認性も確保するため、ガラス張りの醸造室と販売スペースを計画しました。
このタイミングで私が考えていたことはより多くの人に「コンブチャ」とは何かを説明できるために醸造機で製造過程の説明をしながら、安全、安心してもらいたい、そしてコンブチャは健康飲料ではなくアルコールに変わる美味しいドリンクというイメージを持ってもらうために、内装デザインはこだわるというところです。(ちなみに僕はアルコール大好きです)
今回は販売ペース部分のデザインについてなのでそこに特化して話をしていきたいと思います。(この「Plus Kombucha」の全体のデザインアプローチはまた違う記事で話すのでそちらをお待ちしていただければと思います)
初回のゾーニングパースのデザインについては私の中で65%くらいの完成度です。店舗の場合はたたき台として何を表現したいかなどのデザインコンセプトを提案させてもらって、そこからブラッシュアップしていくのが私のやり方なので、オーナーがこのデザインでOKといっても、より良いデザインが思いついたら、いままでのデザインを簡単に捨てます。これが僕のポリシーですし、建築デザインが好きだからこそかなって思ってます。(周りの図面描いてくれる人とかは無表情になりますが・・・)
ゾーニング段階でのデザインのポイントは「土」をどこかに使いたいということでした。それはなぜかというと、コンブチャは酢酸発酵させて下記の分解式によってつくるのですが、
「美味しいコンブチャ」を造るためには、「良質な作物」を発行させる必要があり、この良質な作物は「良質な土壌」が必要・・・と考えると、良質な土を表現しようと考えました。じゃあ微生物が多く、良質な土はどうやってできるかというと、長年かけて堆積して栄養分を蓄えて形成されると考え、「コンブチャのルーツは良質な土壌」じゃないかと思いました。
長年かけて堆積した土壌=地層と位置づけ、コンブチャのルーツを地層で表現するために土をデザインすることにしたんです。
①ゾーニングデザインから水を取り入れたデザイン
土柱をつくって地層を表現しながら、水でミネラル分を表現したが、デザイン的にまとまりが無くしっくりこない(デザイン70%)
大まかなデザインフォルムは販売エリア全体で考えた方がまとまりがあって良いが、まだ何かガチャついている。背面のカラーアクリルのメニュー表は、近年の流行りだけどこの店舗のコンセプトには流行りを入れることでチープになるのではないだろうかという疑念。もう少し地層について考えた方がよさそうかなぁ。(デザイン75%)
地層の堆積はきれいに水平を保つことは無いので、その歪みを表面の地層の重ねあいに角度を付けて表現しました。また偶然生まれる「洞窟」を販売カウンターとして位置付けました。天井の3次元の角度はあえて2次元の展開図等では表現できない形として、現場でつくる過程で偶然できた角度にしようと考えました。(現場はめちゃくちゃ大変ですが)
この偶然性はコンブチャの味とリンクしています。一定の温度、湿度で発酵させていますが、最終的に毎回微妙に味が変わります。この偶然生まれたコンブチャの美味しさと偶然できる地層や洞窟のフォルムを掛け合わせて、そこから商品を提供することを計画しました。(デザイン85%)
これで販売スペースのデザインが固まったので、あとはディテールを詰めてデザイン完成度90%までもっていく作業に入るのですが、ここもかなりのストーリーがあるので、また別の記事でお話することにします。(※ポイントはエジプト、ヒエログリフなどです)
※ちなみに100%までデザインをもっていかない理由は、余白が無いデザインは完璧すぎて偶然が生まれないからです。10%の余白(偶然)が人の心を揺さぶるヌケ感になったり、使い始めてからの商品や人の動きのボキャブラリティーの居場所として成立させたいということもあります。(完璧すぎるより、ほんの少し抜けてる方が愛おしいですよねぇ)
Plus Kombucha 販売スペース
偶然生まれた天井の角度
全体フォルム
地層のディテール
Before→After
この物件は協力してくれた工務店さん、大工さん、エイジング屋さんの力とオーナーであるK様の施主力によるものだと思います。
ありがたいことに、日本空間デザイン賞で入賞、インテリアプランニングアワード2023で優秀賞など各有名な賞を受賞することができました。また雑誌「商店建築」にも掲載いただけました。
商店建築2023/1号
様々な雑誌やコンペで賞を受賞することが資産価値を高め、店舗の場合は集客の手助けになると思うので今後もデザインの力で完成後も恩返しできるように、日々精進していきたいと思ってます。デザインはプロジェクトの規模や予算だけで左右されるものではなく、いかに深堀りできるかということも重要です。
「意味」や「背景」を楽しむのが人間だと思うので、この知的好奇心を満たしていくことも、建築家として重要な役割だと考えています。
今回はここまで。
ありがとうございました。
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